新静岡セノバから北街道沿いを歩き出すとすぐに店舗奥にたくさんの本が並んでいるお店に気づきます。手前には可愛らしい雑貨やお菓子がたくさんディスプレイされて何やら楽しそう。看板には「しずおかのひみつ」と記されています。本屋さん?雑貨屋さん?間違いではないかもしれませんが、従来のお店とは一味も二味も違った取り組みをしているお店です。オーナーは井上泉さん。静岡で仲間と共にまちづくりの活動を続けている「シズオカオーケストラ」の代表でもあります。
実は壁に並んでいる本は売り物ではなく、図書館のように無料で貸し出しをしている本なのです。この本棚のシステムは「みんなの図書館」と呼ばれる仕組みを利用しています。希望者は所定の金額を支払うことで棚主になり、自由に自分だけの棚をつくることができます。いわゆる一箱本棚オーナー制度と呼ばれるものです。そして、本を借りたい方は最初に登録料300円を支払えば、一度に3冊までを1カ月借りることが出来るというシステムです。棚には小説、絵本、写真集や教養書などの多種多様な本が並び、ひとつひとつに棚主の個性がはっきりと現れているのが面白く、この棚主はどんな人だろうと想像を逞しくしてしまうはずです。現在は54ブロックある棚は全て埋まっているということ。とても人気ですね。
「みんなの図書館」は焼津市で始まり、全国津々浦々に広がっています。この仕組みが現在注目されるのは、どんな理由があるのでしょう。図書館というものがそもそも公共サービスで成り立っていることからも商売としては難しそう。それでもこの私設図書館とでも呼ぶべきサービスが全国に広がっていることはとても興味深い現象です。井上さんは「しずおかのひみつ」をはじめるにあたり、この仕組みを取り入れた理由をこう語ります。
『棚を見れば棚主の個性を感じられますが、その際立った個性が集まって、この棚全体に豊かなハーモニーを生み出している。それって街と人の関係と同じではないかと思ったのです。街にはいろいろな人がいます。「みんなの図書館」のみんなとはけっして同質や同意を求めているのではなくて、意見が異なっている「個」でも許容しあえるような多様性ある集団を示しているはずです。この棚はそれを視覚的に表しているといえるのではないでしょうか。また本を媒体に見知らぬ人が行き交い、出会い、混ざっていくことがさりげなくできるということも魅力的です。』
「しずおかのひみつ」はもうひとつ静岡のお土産物のセレクトショップという顔を持ちます。店内に並ぶ雑貨やお菓子はすべて静岡に関係したものだったにです。お土産も人と人をつなぐアイテムなのは間違いありません。また静岡を再発見する機会もあるでしょう。そう考えると井上さんが取り組んできた「まちづくり」の延長としてこのお店があることが見えてきます。本とお土産を通して、人やまちとの出会いを新しくデザインする。その出会い直しはきっとコミュニティを活性し、これからの公共の担い手を育んていくことでしょう。
静岡市葵区駿府町1-21-1F
月火10-19時/木金土10-16時(水日祝定休)
新静岡駅セノバから徒歩1分。静岡ならではの雑貨を扱うおみやげ屋と一箱本棚オーナー制度の「みんなの図書館」がある場所です。石垣と喫茶も少々。運営は@shizuoka_orchestraと仲間たち。