SCENE.2 牧野としこ「死刑台のエレベーター」

「私はお金も知性も名声も全て持っている。だから男性は美しければいいの」

秋になるとジャズが聴きたくなる。
映画とジャズは切っても切れない関係で、ジャズは映画の名脇役となり数々の名作が生まれてきました。中でも私の心に残るのは、マイルス・デイヴィスの伝説の音色、フランス映画「死刑台のエレベーター」です。
実は私、人生で初めてこの映画でジャズに触れました。

初めてこの映画を観たときのあの衝撃!今でも忘れられません。

内容は、完全犯罪の計画が、エレベーターが停止することによって壊れてゆく様子を、カットバックを駆使しながら描いたもの。サスペンスです。これから完全犯罪へと向かっていく男女の会話で幕が上がり、そこにマイルス・デイヴィスのクールなトランペットが鳴り響く・・・

このオープニングから、もう!何度観ても惚れ惚れ!

1957年のモノクロ映画なのですが、こんなにもスタイリッシュかつ色っぽい始まり方をする作品は、他に浮かびません。このヌーヴェル・ヴァーグの先駆けとも言われる映画を監督したのは、弱冠25歳のルイ・マルでした。たった1年の現場経験しかない新人監督が、いきなり長編デビューを果たし、しかも有名スターやミュージシャンを起用できたのは、ルイ・マルが大実業家の富豪の息子であり、父親からの莫大な援助によって実現したというのは有名なお話。でもそんなことは抜きにして、その鋭い映像感覚は、今なお衝撃的です。
そして、この甘美さは、アメリカ映画や日本映画では決して出すことができない、フランス映画の神髄だと思うんです。

ジャンヌ・モローがささやく「ジュテーム」という言葉―。

フランス語だからこそ「愛してる」がこれだけ情熱的に響いて、マイルス・デイヴィスの乾いたトランペットの音色に意味が生まれ、静と動を使い分けたトランペットが、決して出会えない登場人物それぞれの心象風景をつなげていきます。

この映画は、ジャンヌ・モローとモーリス・ロネ、若いカップルという三者の時間の流れを、3楽章の音楽に見立てて作ったとも言われていて、シャープなモノクロ映像に突き刺さるようなトランペットの音色が冷たい大都会で行き場を失った男女の心理を見事に描き出しています。

またこの人ほどファム・ファタ―ルが似合う女優はいないと思う!

主演のジャンヌ・モローの媚びない美しさは、他の女優とは異質で唯一無二のもの。お相手のモーリス・ロネは、知的で影のある男の色気を感じさせる俳優で、「太陽がいっぱい」ではアラン・ドロンに殺されてしまうお金持ちの青年役でした。この映画ではエレベーターに閉じ込められてしまう男を見事に演じています。

完璧に完成されているこの映画は、今観ても最高にクールで、一瞬でその世界に引き込まれてしまう「魔力」があります。

秋の夜長は上質な「映画の色気」に酔いしれてみませんか?

「私はお金も知性も名声も全て持っている。だから男性は美しければいいの」

このジャンヌ・モローの名言が似合う女性になりたい(笑)